青色LED訴訟、日亜が8億4391万円支払いで和解
さあて、どないしようかなあ。基本的な考え方は去年の2月24日に書いた日記と変わらへん。今日はいろんな人がこの話題について書くとは思うが、わしはある意味関係者やからね。たぶん一般の研究者より経緯はよく知っとると思う。今日はそれをふまえて書くことにしようか。
N社から青色LEDが発表された時は、これはホンマに大騒ぎやった。わしは89年にLED関連のセミナーに出席して、当時名古屋大のA教授が綺麗な結晶作製技術と、極めて重要な発明であるp型化技術の発表があって驚いたんやけど、工業化はまだ先やろうと思ってた。
それから、少しするとJ.J.A.P.(Japanese Journal of Apllied Physics)という雑誌にN氏の投稿が載るようになった。当時はN社なんて聞いたこと無かったんで、「これはホンマやろうか、ホンマやったら工業化に繋がるなあ」と思って論文を読んだ記憶がある。それから極めて明るいLEDの発表に至った訳やけど、この時のわしの衝撃は次の3つやった。ちょっと専門的になるけど、許してくれい。これはあまり書かれへんけど、重要なことやからな。
- 発光層にInGaNというGaNより作製が難しい(NTTグループから発表あり)材料を使用
- 透明電極とサファイア基板の加工という難しい技術を迅速に開発したこと
- LEDランプを売ったことがない、N社という会社が事業化までこぎつけたこと
それからというものの、学会ではN氏は大もてで、どこに行ってもその姿を見るようになった。一方、N社の開発のスピードはすざましく、いったいどういう開発体制を取っているのか、興味津々やった。
そのうち、N氏がいろんなところでポツポツと開発の経緯について語り始めたんやな。曰く、人のやらないことをやろうとした、曰く、会社からは禁止されてるのに無視してやった。なるほど、こういう人やからできたんや、わしも研究者の端くれならこうありたいものやと思ったもんや。ところが、ここで疑問がいくつか沸いてきたんやね。
- N氏は学会に講演に引っ張りだこなのになんでN社の開発のスピードは落ちひんの?
- N氏以外になんで誰も発表せえへんの?
- 劣悪な環境っていうとるけど、モノになるかどうかわからん開発に高価な装置買って貰っとるやん
まあ、こんな感じで疑問を持ってたわけ。当時は、大企業にできなかった開発をたった一人の四国の研究者が成し遂げた、これは痛快なことやんっちゅう風潮があったんで、N社の方もそれを利用してたと思う。
そのうち、別会社が参入してきた。これがT社。ところがここでN社はわしがいうなら特許DQNな所*1を見せて、訴訟合戦に入った訳やね。それで自然とわしらも特許に注目するようになった。もちろん、N社の特許は公開も含めて*2全部見たわ。で、思ったことは・・・
- 確かにN氏はいい結晶を作るということへの貢献は極めて大きい
- でもM氏やI氏やS氏、それからもう一人のN氏の貢献も大きいよなあ
- 特にY氏の貢献って事業化には欠かせへんかったんとちゃうの?
- 事業部長のK氏はスタンレー出身やね。ということはランプ化のノウハウはこの人のおかげやろ
わしは特許DQNなN社が大嫌いなんで、肩を持つような事を書くのはちょっとイヤやねんけど、同業のいち研究者から見るとこんな感じやったわなあ。それとね、やっぱり研究・開発・事業化って一人でできひんよな、冷静に考えたら。N社の開発スピードが異常に速かったことから考えても、それくらいはわかりそうなもの。指揮はしたかもしれんけど、それで功績を独り占めするのはあまりに傲慢すぎるやろ。
また、開発だけにこんなに大金を与えてええんかという話もできる。ぶっちゃけた話、営業の力で1000億クラスの利益を会社にもたらしたとしたら、例えば5億*3でも給料とは別にあげるんやろうか。それはせえへんのとちゃうかな。N氏の功績はあくまでも事業化であり、特許的な広義の意味では発明(事業化に繋がる発明)やけど、無から生み出したものではなく、GaNが青色発光材料であることを発見したPankoveを初めとして、当時名古屋大のA教授やその弟子のA助教授、それから当時NTTでInGaN結晶の開発を行っていたM氏などの先人の知恵や技術があってこその事やと思う。
で、今回の件に関してのわしの意見はこうなる。
- 404特許自体については大した特許やないやろ
- 8億4千万は少し少ない、わしなら20億程度が妥当と感じる
- でも、あくまでもN氏一人の力ではない
- だから20億を主力開発者で貢献度に応じて分けたらええんとちゃう
- アメリカに留学させて貰い、なおかつ3億ポンと出して貰って中小企業の劣悪な環境って言うな
- わしらの研究環境の方が劣悪やんけ(笑)
- N氏のアメリカかぶれは見てられへん
双方とも不満はあるやろうけど、ある一定の意味は残した裁判・和解やったんとちゃうかな。たぶん、明日N氏は大いに吠えると思うけどな。